Gnosisは、イーサリアムブロックチェーンをベースとした予測市場プラットフォームとして機能します。Gnosisを利用して開発できる分散型アプリケーションでは、ユーザーが将来の出来事に対してトークンを用いた賭けを行うことができます。

Gnosis内にはGNOトークンとOWLトークンという2種類のトークンが存在し、それぞれのトークンの働きによってGnosisがプラットフォームとしてより魅力的になり、利用者がさらに増えていくように工夫されているのです。

そこで、当記事ではGnosisにおけるトークンモデルに着目して、Gnosisプラットフォームの仕組みを見ていきます。

 

GNOトークンとOWLトークンの役割

GnosisにはGNOトークンOWLトークンという2種類のネイティブトークンが存在します。これらは、Gnosisプラットフォームにおいてネットワーク効果を生み出すことや利用手数料を効率的に支払うために存在します。

GnosisにおけるGNOトークンとOWLトークンのそれぞれの主な役割は以下の通りです。

  • GNOトークン:報酬を受け取るため。OWLトークンを生成するため。
  • OWLトークン:手数料を支払うため。

 

GNOトークンはGnosisプラットフォームで中心となるトークンで、ユーザーはGNOトークンで予測市場の報酬を受け取ったり、賭けをすることができます。GNOトークンはGnosis外部でもトークンとして価値があり、取引所でETHなどの他のトークンと交換することが可能です。また、後述するようにGNOトークンはOWLトークンを生成するための価値の担保としても機能しています。

 

一方、OWLトークンはGnosisを利用するときのさまざまな手数料として使用することができます。

例えば、エンドユーザーであれば予測市場に参加するときに発生する取引手数料をOWLトークンで支払うことができますし、アプリケーション開発者であればGnosisプロトコルを利用するための手数料をOWLトークンで支払うことができます。他にも、予測市場参加者のための助成金として使うことや市場の初期流動性を与えることなどにOWLトークンを使うことが可能です。

逆に、OWLトークンはGnosis内で手数料等の目的でしか使うことはできず、Gnosis外部の取引で使用することなどはできません。

 

GNOトークンとOWLトークンの入手方法

GNOトークンは通常のトークンのように、取引所で他のトークンと交換することで入手したり、予測市場アプリケーションの報酬として手に入れることができます。(GNOトークンは既に全て発行済みなので、新規に作成されることはありません)

特徴的なのはOWLトークンの入手方法です。OWLトークンはGNOトークンから生み出されるのです。

 

ユーザーはGNOトークンをウォレットで管理するか、スマートコントラクトで管理されているタイムロックにデポジットするか選択することができます。ユーザーがGNOトークンをロックする(使えないようにする)と、そのロックしたGNOトークンに応じてユーザーはOWLトークンをもらえます。

GNOトークンのロック期間は30日〜365日の好きな期間を選べ、最初のロック時に獲得する30%のOWLトークンがもらえ、残りの70%のトークンはロックしている間に少しずつもらえることになります。このときもらえるOWLトークンの枚数と分配するタイミングはスマートコントラクトにより制御されています。

 

ロック期間が終わればユーザーはGNOトークンは自由に使えるようになり、OWLトークンの供給も終了します。もちろんGNOトークンはロックしているだけなので枚数は減っておらず、OWLトークンがただでもらえたことになるのです。(GNOトークンを使えないことの機会損失がコストになっているとも解釈できます)

ちなみに、ユーザーはタイムロックするスマートコントラクトを実行する前に、どのくらいのOWLトークンをもらえるか知れるようになっています。

 

実際の具体例を見ていきましょう。

ユーザーであるアリスは分散型予測市場アプリケーションで「明日は晴れるか?」という題に対し、1ETHを賭けて、10GNOトークンを報酬として得ることができました。アリスはこの10GNOトークンをウォレットで管理しておくのではなく、1年間ロックすることにしました。

すると、アリスはそのGNOトークンを使えない代わりに、今後1年間毎日OWLトークンを得られるようになります。そして、アリスはそのOWLトークンを予測市場のトレードのための手数料として使うことができるようになりました。

 

また、アプリケーション開発者であるボブはGnosisプラットフォーム上に予測市場アプリケーションを構築することになりました。ボブはあらかじめ自身のGNOトークンをロックして、OWLトークンを手に入れることができています。

ボブは、Gnosisを利用するための手数料をOWLトークンで支払ったり、自身のアプリケーションを使用するユーザーのためにOWLトークンを使用することができることになります。

このように、GnosisではネイティブトークンであるGNOトークンとOWLトークンが存在しますが、実はGnosis内でETHなどの他のトークンを使用することも可能です。しかし、後述するようにユーザーや開発者にとってGNOトークンやOWLトークンを使用することがインセンティブになるような仕組みが用意されています。

 

Gnosisにおける手数料について

Gnosisを利用するときに、ユーザーは開発者はどのようなときに手数料を支払わなくてはいけないのか見ていきましょう。

Gnosisは以下のように4つの階層構造をしており、イーサリアムブロックチェーンをベースとしてその上に3つのGnosisプラットフォームの層を構築しています。

Gnosis

(source: GNOSIS)

 

Gnosisプラットフォームの中核となるのはGnosis Coreの層で、トークンのやり取りや価格の決定、オラクルの参照など予測市場の基本的な機能を提供しています。

Gnosis Coreの仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

参考:トークンを使った予測市場の実現を目指す「Gnosis」の仕組み

Gnosisでは、この基本的な機能を提供するGnosis Core層で定義されているスマートコントラクトは無料で使用できるようにしているのです。ここの部分を有料にして手数料利益で収益化するよりも、無料で提供することで多くのDapp開発者に利用してもらいプラットフォームのネットワーク効果を加速させていく方針であることが分かります。

 

一方、手数料が必要になるのは、その上のGnosisサービス層とアプリケーション層になります。Gnosisサービス層ではコア層の基礎的な機能を拡張するためのサービスを提供するための層です。

例えば、トランザクションをオフチェーン処理するためのState channelがあげられます。予測市場アプリケーションにおいて多くのトランザクションを処理するために、オンチェーンではトランザクションの処理が遅延しユーザーにとって不利益になる問題を引き起こすことが考えられます。

 

他にも、価格が安定しているStablecoinsの機能も提供します。もしトークンの価格が大きく変動する場合は、予測市場にとって不都合であることが多いのでUSドルの価格に連動する価値を持つStablecoinsなども必要となるはずです。

また、基本的なオラクルはコア層で定義されていますが、さまざまなタイプのオラクルが今後さらに導入されていく方針です。そこで、サービス層ではこれらのオラクルの選定を提供することでGnosisプロトコルを使ったアプリケーションの開発の参入障壁を大幅に下げる狙いもあります。

さらに、分散型アプリケーションを開発するためのテンプレートやプロトコルをカスタマイズするためのツールなども提供していく方針です。

以上のような、拡張的機能を使用する場合はGnosisプロトコル手数料が必要になります。

 

また、アプリケーション層においてユーザーは賭けるトークンの0.5%の手数料を支払う必要があります。(この数値は将来的に変わっていく可能性はあります)

ただし、ユーザーが支払う手数料はアプリケーション開発者側が助成することも可能です。もちろん、アプリケーション開発者は自身の収益のために、Gnosisプラットフォームに関係なくユーザーに手数料を請求することができます。

 

OWLトークンの必要性

そもそも、なぜ手数料を支払うためだけのOWLトークンが必要なのでしょうか。ETHやGNOなどのトークンで手数料を支払うこともできるのではないでしょうか。

実際、Gnosisプラットフォームに参加者が多く集まっていない初期の段階ではBTCやETHなどで手数料を支払うことを想定しており、OWLトークンは補助的な要素となります。

しかし、OWLトークンはGnosisプラットフォーム内部だけでしか使用することができないので得たOWLトークンはGnosisで使うしかありません。OWLトークンは1USドルの価値に連動しているのでGnosis内でのみ使用できるクーポンのように働くイメージです。(OWLトークンは外部で売って他のトークンに変えることはできません)

 

端的に言うと、OWLトークンはGnosisのリピーターを増やすために存在します。手に入れたOWLトークンはGnosisでしか使えないので、Gnosisを利用しようとする動機づけになるのです。例えば、アマゾンポイントのようなイメージでアマゾンを利用しポイントが貯まれば、再びアマゾンを利用したくなるはずです。

上述したように、OWLトークンはGNOトークンを一定期間ロックしておくことで無料でもらえることができるので、OWLトークンを保持しているユーザーはETHなどよりもOWLトークンで手数料を支払うことになるでしょう。

 

また、OWLトークンが外部で価値を持たずGnosis内部でしか使えないのであれば、手数料としてトークンを支払う必要はないのではないかと考えることもできますが、手数料はスパム対策等に必要不可欠です。

手数料がなければ攻撃者がプラットフォームに負荷をかけるような攻撃を永遠と行うことが可能になります。これを防ぐために、Gnosisで支払うための手数料としてOWLトークンが用意されているのです。

さらに、Gnosisでは今後、競合となりうる予測市場プラットフォームに対して優位性を保つために手数料を減少させていくメカニズムを用意しています。

 

手数料減少メカニズム

上述したように、将来的にはほとんどの手数料はOWLトークンで支払われることが考えられますが、他のトークンで支払うことも可能です。特に、初期段階においてはETHなどで手数料を支払うことが多いと考えられます。

ETHなどで手数料を支払った場合は、Gnosis外部のオークションコントラクトにETHが送られ、GNOトークンで入札することが可能です。つまり、手数料として支払われたETH等は外部のオークションコントラクトに基いてGNOトークンで買われることになります。

 

このような方法で手に入ったGNOトークンはGnosisにおける手数料を減少させる効果があります。例えば、全体の10%のGNOトークンが上述のオークションコントラクトを通して存在している場合は、自動的に手数料が10%減少するようになるのです。

このオークションコントラクトにおけるGNOトークンの総額に比例して手数料は減額されていくのです。つまり、Gnosisの利用者が外部のETHなどのトークンで手数料を支払う人が多ければ多いほど手数料は減ることになります。

このようにGnosis利用時の手数料としてETHなどの外部トークンが入ってくるとGNOトークンに交換され、永久的にGnosisでの手数料は減少していくメカニズムの導入が考案されています。

 

以上のようにGnosisでは、GNOトークンとOWLトークンを上手く使ったトークンモデルを形成することで、セキュリティを保ち、ユーザーと開発者を増やしていこうとしています。また、ネットワーク効果を高める戦略を優先しており、短期的な収益化よりも利用者を増やしていくことに集中していることも分かります。