「ブロックチェーン」と聞くとまず思い浮かぶのが、ビットコインネットワークのように非中央集権なP2Pネットワークです。このようにオープンなブロックチェーンはパブリックチェーンと呼ばれ、パブリックチェーンを活用することで、誰からも許可を得ることなくネットワークに参加でき、互いに信頼していない者同士でも安全に取引を行うことが可能になったのです。
しかし、あえて中央管理者を置くことで企業が運営しているプロジェクトでもブロックチェーンを活用できるようにしたのがプライベートチェーンやコンソーシアムチェーンと呼ばれるブロックチェーンになります。
当記事では、これらプライベートチェーン・コンソーシアムチェーン・パブリックチェーンの違いについて紹介し、それぞれのメリット、優れている点について解説していきます。
プライベート・コンソーシアム・パブリックなチェーンの違い
合意形成プロセスにおける参加者の違い
プライベート、コンソーシアム、パブリックなブロックチェーンの違いは、ネットワーク内での合意形成にどのレベルの人が参加することができるかという違いで分かりやすく分類することができます。
ブロックチェーンでの合意形成は一般的に以下の流れで行われます。
- トランザクションの検証
- ブロックへのトランザクションの追加
- 新規ブロックの検証
- ブロックチェーンの選択
参考:ビットコインネットワークにおける分散型コンセンサス形成の具体的な流れ
この合意形成のプロセスに対して、特定のひとつの管理団体のみが参加できるのがプライベートチェーンです。プライベートチェーンはひとつの管理団体に全ての権限が集中しているので、中央集権型のブロックチェーンと表現することもできます。つまり、その唯一の管理団体が悪意がなく信頼できることが前提として成り立つブロックチェーンです。
それに対して、複数の管理団体が合意形成プロセスにできるのがコンソーシアムチェーンです。コンソーシアムチェーンは複数の管理団体に権限が分散している分、プライベートチェーンと比べてリスクが分散できていると言えます。
例えば5団体が管理するコンソーシアムチェーンの場合、そのうちの2団体が悪意を持っていても他の3団体が正当に管理していればブロックチェーンは有効に保たれます。
パブリックチェーンは、誰もが合意形成プロセスに参加することが可能です。ブロックチェーンに対して特定の管理者は存在しないので非中央集権的なブロックチェーンと表現することができます。
(source: IBM Blockchain Summit)
プライベートチェーンとは
プライベートブロックチェーンとは、ある特定のひとつの管理団体が管理し、データを記録しているブロックチェーンのことです。ブロックチェーンに記録されたデータ自体の読み取りも管理団体が自由に変えることができ、一般公開させたり、関係者のみが見れるようにしたりすることが可能です。
このような特徴があるプライベートチェーンは金融機関や企業がそれぞれのプロジェクトで活用されることに適しています。
コンソーシアムチェーンとは
コンソーシアムブロックチェーンとは、あらかじめ選出された複数の信頼性の高いノードが合意形成を行うブロックチェーンです。例えば、20個のノードのうち15個以上の合意が得られれば、コンソーシアムブロックチェーンに新しいブロックを追加することができます。
ブロックチェーンのデータの読み取りは一般公開させたり、ネットワーク参加者のみが閲覧できるようにすることが可能です。
このコンソーシアムチェーンもプライベートチェーンと同様、エンタープライズ向けにさまざまな産業で応用されることが期待されています。
パブリックチェーンとは
パブリックチェーンとは、誰もが許可なし(パーミッションレス)にブロックチェーンを管理することが可能です。つまり、ブロックチェーンへの書き込みも読み取りも許可なしに誰もが行うことができます。
また、管理者は存在しないので信頼していない(トラストレス)ネットワークの参加者同士が協力してブロックチェーンを管理していきます。この管理作業を行うことは経済的なインセンティブ(PoWやPoSなど)を得ることができるので、特定の管理者が存在しなくてもブロックチェーンには十分に管理が行き届くのです。
このような特徴を持つパブリックチェーンは、ビットコインなどの仮想通貨やイーサリアムなどの分散型アプリケーションプラットフォームに適しています。
以下では、ネットワーク内で単一または複数の管理者が存在する場合をプライベートチェーン、管理者が存在しない場合をパブリックチェーンとして解説していきます。
プライベートチェーンのメリット
プロトコルの変更が簡単
プライベートチェーンでは、特定の管理者がブロックチェーンを運営しているのでブロックチェーンのルールを変更したり、過去に承認されたトランザクションを取り消したり、アカウントの残高を変更したりすることは簡単に行うことができます。
企業が運営しているプロジェクトでブロックチェーンを活用する場合は、このような仕様やデータの変更を行う必要が出てくるのでプライベートチェーンが適しています。
一方、パブリックチェーンでプロトコルの変更を行う場合は、ネットワーク参加者の十分な合意を取る必要があり簡単に行うことはできません。また、管理者が存在しないので承認されたトランザクションの変更やアカウントに関するデータの変更は一切できないようになっています。
取引手数料が安い
プライベートチェーンでは、高いハッシュパワーを持った信頼できる少数のノードによってトランザクションが検証されるので、その分取引にかかる手数料が安くなります。
一方、パブリックチェーンでは信頼できない多数のノードによってトランザクションが検証、承認されるので、正しいトランザクションの合意形成を得るためにコストがかかり手数料が高くなってしまうのです。
ファイナリティにかかる時間が短い
要するに、互いのことを知らない1万人の中で正しい合意形成を得るよりも、身内10人の中で正しい合意形成を得る方が圧倒的に早く簡単であるということです。
プライベートチェーンは管理者によって決められた複数の信頼性の高いノードがトランザクションの検証を行います。つまり、検証作業を行うノードはある程度信頼できると考えられているので、比較的少数の承認者で済むことになります。なので、トランザクションの承認も非常に早く行うことができます。
一方、パブリックチェーンは不特定多数のノードがトランザクションの検証を行います。ノードの中には悪意を持って自分に有利な不正トランザクションを承認させようとするノードも存在することが前提としている状況の中で、全体としては正しい合意形成を取って、正しい検証作業を行う必要があるのです。
つまり、多くの数のネットワーク参加者が信頼できないトラストレスな状況の中で承認作業を行う必要があるので、正当なトランザクションに対する合意形成(ファイナリティ)には時間がかかってしまいます。
プライバシー性に優れている
パブリックチェーンでは、誰もがブロックチェーンに記録されたトランザクションを閲覧することができるので、「いつ、どのアドレスからどのアドレスへ、いくら送金されたのか」という情報を世界中の人が確認することができます。
当然、企業がブロックチェーンを活用してプロジェクトを行う場合このような個人情報の外部流出は大きな問題になります。この点、プライベートチェーンではブロックチェーンに記録されている情報の公開を管理者が自由に制限することができるので、プライバシーを保護することが可能になります。
また、パブリックチェーンでも特定の仮想通貨では、匿名性に優れたトランザクションを作れる技術を導入していますがマネーロンダリングに悪用されたりするリスクがあります。
51%攻撃が起こらない
プライベートチェーンではトランザクションの検証者は互いのことを知っているので、同盟を組むことによる51%攻撃が起こるリスクはありません。そもそもプライベートチェーンにおいて検証者は信頼できるので、プルーフ・オブ・ワークやプルーフ・オブ・ステークなどのようにコンセンサスアルゴリズムで経済的インセンティブを与える必要がないのです。
参考:ブロックチェーンの安全性を脅かす「51%攻撃」の仕組みと実態
パブリックチェーンのメリット
管理者が必要ない
ビットコインを生み出したサトシ・ナカモトが開発したのは「分散型創発的コンセンサスアルゴリズム」と言われています。
つまり、ネットワークにおいてそれぞれの参加者がそれぞれの目的に従って自由に活動している状況下において、ネットワーク全体にとっての正しい合意形成が行えるようになったということです。
このようなネットワークはパーミッションレスかつトラストレスな環境であるにも関わらず、不正のない正しい取引が行えるのです。
このようにパブリックチェーンでの大きなメリットはネットワークに管理者を置く必要がないということです。これにより、管理者が不正を行うあらゆるリスクの排除、管理者が得る手数料の排除を可能にしています。
また、これまで第三者を介することで行われていたあらゆるサービスがパブリックチェーンで置き換えられる可能性も示しています。つまりより自由に個人間で価値のやり取りができることが可能になるのです。
価値のある仮想通貨を作れる
パブリックチェーンを使えば価値のある仮想通貨を作ることができます。なぜなら、誰もがそのネットワークに参加することができ、ブロック承認の検閲耐性や透明性が高いからです。
また、ブロックチェーンに記録されたデータを書き換えることはほぼ不可能(ブロック6個以上追加後)なので、永続的なデータの保存に適しています。パブリックチェーンはこのような特性を持っているので仮想通貨の運用に用いられているのです。
一方、プライベートチェーンの場合は参加者が制限されてしまうので、そのネットワーク内でのみ有効な仮想通貨(トークン)しか作ることができません。また、検閲耐性や透明性、データの永続性が比較的低いことも価値のある仮想通貨の創造には適していないと言えます。(エンタープライズ向けに開発されているので外部の価値との交換は必要ないと言えます。)